日本には日本における働き方があるように、海外にはその国や地域の働き方があります。背景となる文化も習慣も違うため、「郷に入りては郷に従え」といわれる通り、そのやり方に馴染む必要があります。もっともこれだけ情報の氾濫したグローバルな社会では、各国のお国事情も漏れ聞こえてきます。しかしそれらは飽くまで一面を表しているにすぎないのであり、現地で実際に働いて見なければ、分からないことも多いものです。
日本人の中には、フランスに憧れる人も多いものですが、あまり仕事をしていないイメージがあるかもしれません。実際のところランチにはたっぷり2時間かけて、カフェで同僚たちと雑談に花を咲かせるというのがフランス流です。日本人が時計の如く、きっちり12時に飛び出して、30分ほどでそそくさとお昼を詰め込んで、足早に1時には会社に帰ることを考えると、羨ましい限りです。
しかしフランス人は、ランチをただ単に食べるだけのものとは考えておらず、おしゃべりをしてリラックスするのが目的なのであり、オンとオフとの明確な切り替えによって、仕事への集中力を高めているとも言えます。
ではフランス人の1日の労働時間は短くなるのか、といえば、意外にもそうではありません。朝8時からランチを挟んで夕方5時までというのが通常であり、平均労働時間は週35時間となっています。これは日本人の1日8時間労働より、やや少ない程度です。しかしフランスでは法律で週35時間以上働いてはならないと定められているため、残業がありません。
一方の日本ではサービス残業も当たり前であり、残業を減らそうなど掛け声倒れで、過労死が後を絶たないという現状とは、大きく意識が異なります。フランスでは夕方5時を過ぎれば、さっさと仕事を終えて帰宅し、そこから家族や友人との時間をゆっくりと楽しむことができます。
そしてなんといってもフランス人には、優雅なバカンスを実現できるだけの、長い有給休暇があります。日本人が勤続年数に応じて10日以上であるのに対し、実に35日以上です。これは1か月以上にもなりますが、大抵はきっちり消化しているようであり、当然のことながら旅行にも出かけやすくなります。
有給休暇を消化しきれずに残った分は退職時に回したり、あるいは会社に買い取ってもらうことは、日本人にとってはごく普通のことですし、またお盆やお正月や連休ともなれば、一斉に企業が休むために、ツアー料金は跳ね上がり、行楽地はごった返すし、帰省ラッシュでくたびれ果てるという悪夢からは、想像もできない豊かさです。